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ナイフの切っ先が煌めき、リースの太ももに小さな赤い線を描く。
流れ出す血液が白い肌を朱に染める。ほんの小さな傷口ではあるが、アルはそれを見て怒りに打ち震えた。
「て……めえ……」
昔からずっと傍にいて、必死で自分を励ましてくれたリース。
誰からも認められず、親からも見捨てられたアルにとって、リースは闇の中に輝く、一筋の暖かい光だった。
そんな、何物にも代えがたく、そして何よりも大切な存在であったリース。
それを、ブラールは傷つけた。
アルの目の前で、顔色一つ変えずに。
そして、ブラールはこれから更にリースに危害を加えようとしている。
――許せない。許せるはずがない。
しかし、痺れる身体はアルの気持ちなど汲んではくれない。
そんな、もどかしさと苛立ちで燻るアルを嘲笑うかのように、ブラールが詠唱を始める。
流れるような文言が進んでいくにつれ、リースから流れ出た血液が段々と何かを形作っていく。
やがて完成されたのは、一振りの短剣。
空中に浮遊したそれは、その切っ先を正確にアルに向け、動きを止める。
「ふふっ、終わりにしようか。落ちこぼれのアルフレッド君」
ニヤリと笑うブラール。
アルの中に、絶望と無力感が広がる。
――リースを守る。
そんな簡単なことすら為せない自分が、どこまでも腹立たしかった。
「くそおおおおお!」
「……行け」
膨れ上がったアルの感情が、絶叫の爆音をあげる。
その声を切り裂くように、短剣がアルに向けて飛翔した。
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