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「なんだと……!?」
驚愕の声を上げたのは、ブラールだった。
――あり得ない。
すぐさまブラールはそう思った。
血液で作った短剣は、正確にアルの心臓を射抜き、その命を奪うはずだった。
――そう、はずだったのだ。
だが、今目の前で起こっている現象は、およそブラールの理解の外だった。
アルが手をついていた大樹が不意に枯れ果て、代わりに大地から突き出した巨大な根が、アルを守るように立ち塞がったのだ。
まるで、子を抱く母の手のように、大樹の根はアルを包み込んで、短剣から守っていた。
「これは一体……?」
そして当のアルも、この現象に戸惑っていた。
触れていた大樹が枯れているところから見て、アルが無意識にこの大樹から魔力を吸収してしまったのは間違いない。
しかしだからといって、今の状況を説明することはできなかった。
そして更におかしな事に、流れるようなアルの金髪が今は緑に変色し、草花と同じように風になびいている。
エクリプスドレインという魔法は、魔力組成を自分のものに変換してから魔力を奪うものだと、シェリスは言っていた。
しかしアルは今、その説明に疑問を感じずにはいられなかった。
まるで自分の身体の方が、木の魔力によって変化したような、そんな感覚だったからだ。
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