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「そうか。やはり失敗したか……」
ククリーの報告に、ブラールは小さく息を吐いた。
豪奢な赤いカーペットに、数々の宝石で彩られた彫刻などの調度品。
そんな、きらびやかとしか言い様の無いブラールの部屋も、今のククリーには居心地が良くなかった。
「……申し訳ありません。思わずブラール様の名前まで出してしまいまして……」
「それは構わんよ。元より、アルフレッドの奴に憎まれているのは承知の上だからね。お前が奴に近づきにくくなるだけだ。特に問題は無い」
「……はい」
「案ずるな。元々お前に期待などしていない。以後、通常業務へ戻れ。以上だ。私はリリーと会う。今日は邪魔するなよ?」
めんどくさそうにまくし立てるブラールに一礼して、ククリーはとぼとぼと部屋を出る。
いつもの廊下が、やけに大きな重圧感を伴って、ククリーを迎えた。
「すまないね。ククリー君」
「……旦那様?」
ふと、重苦しい空気を切り裂くように放たれた声に、ククリーは振り返った。
痩せた体に白髪、そして良く手入れされた口髭。
そこに居たのは、ブラールの実父である
『レギンスール・ハインケル』
であった。
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