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「でも……アルの奴は何か違う気がするんだよ。あいつは多分、強くなっても堕落はしないと思うんだ」
「根拠の無い憶測だな。まあいい。どのみち、奴もまだ学生である以上、派手に動くことはできない。引き続き、監視しろ。分かったな」
「……分かった。でも親父、一つだけ確認させてくれ」
「なんだ?」
「俺たちは、金目当ての他の貴族狩りとは違う。人を苦しめる悪党貴族だけを狙う、信念ある貴族狩り……そうなんだよな?」
「ああ、その通りだ」
「……分かった。信じるよ」
まだ何か言いたげなカインだったが、そこで話を止め、小さくうなずいた。
「……進級までにケリをつけるよ。それならいいだろ?」
「いいだろう。頼むぞ」
言葉が返ってきた時には、カインは既に父から背を向けていた。
憮然とした表情で、カインは道場の出口である引き戸を開ける。
外は既に暗闇に包まれており、離れの道場から住居へと帰る道すら、手探りで進む必要があった。
しかし、そんな暗闇の中にも、月は僅かな光を与えてくれる。しかしそんな月も、カインの心の暗闇まで照らしてくれなかった。
「親父……本当に俺達は……」
道すがら、まだ離れの道場に残っているであろう父に向かって、聞こえるはずのない言葉を放つカイン。
夜は、まだ明けそうに無かった。
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