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「はあ……」
アルは一人、客間のソファでため息を吐いていた。
シェリスは、家に着くなり部屋に籠ったまま出てこない。
その行動にどんな意志が含まれているのかは分からないが――いや、分からないからこそ、アルには辛かった。
確かに今までは、くっついてくるシェリスをうざったいと感じていたが、今はそれすら恋しいとさえ思えてくる。
それほどまでに、シェリスが放った今日の言葉は、アルにとって衝撃的だったのだ。
「……情けねえなあ、俺も」
帰り道では、当のシェリスを前にしていたにも関わらず、それなりに冷静にいられたと思っていた。
しかし逆に、シェリスが居ない今になってから、色々な感情が渦巻いてきて仕方がないのだ。
さらに言えば、シェリスは今ここに居ないだけで、部屋に行けば普通にいるのだ。
ノックをすれば、嬉しそうに扉を開けて抱きついて来るのだろうし、そうでなくても、しばらくすれば出てくるだろう。
それなのに、アルは何故かどうしようもない胸のざわつきに駆られて仕方がなかった。
「どうしちまったんだろな……俺」
目を閉じると、抱き寄せたシェリスの甘い香りが蘇ってくる。
地下室から発掘された安物の香水の香りだと自分に言い聞かせても、心臓は早鐘を打つことをやめてはくれない。
今まで、シェリスにいくら迫られても感じたことの無かった感情に、アルは戸惑いを隠せなかった。
「あ、アル! や、やほー! こ、今夜は暑いデスネー!!」
「んぁ?」
その時、背後からソファ越しに、無駄にハイなリースの声が聞こえてくる。
それに反応し、アルは緩慢な動作でゆっくりと振り向いた。
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