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――シャァァァァ……
大人が一人入ればいっぱいになってしまいそうな狭い浴室の中に、シャワーの音が響く。
肌に触れる度に、玉になって跳ねる水滴を眺めながら、レイムは今の状況を整理していた。
「まさかこんなことになるなんてねえ……」
シャワーの音でかき消えてしまうくらいの小さな声で、独り言を溢す。
曇りガラス越しに見える空は黒く染まっており、本来ならばとっくに自宅に辿り着いている時間だと分かる。
しかしレイムが汗を流しているのは自宅の浴室ではない。
ここは、カインの家の浴室なのだ。
海からの帰り道、『今日は誰もいないから』というお決まりの文句で、あれよあれよと家まで連れ込まれてしまったレイム。
だが、既にシャワーを浴び終えて、ベッドで待っているであろうカインを思うと、一抹の不安のような感情が、胸をチクリと刺すのだった。
――レイムは、男性と長続きしない質であった。
元々、性におおらかであり、今まで何人もの男性と交際経験があるレイムではあったが、決して遊びで男をからかっているわけではない。
しかし何故か、交際が長く続いたことはなく、付き合っていた男性とは気まずい感じで終わることが多い。
そして今、ずっと友人として付き合っているカインと、男女の関係になろうとしている。
絶対に乗ってこないアルをからかうのとは全く違う、この状況。
もし、今でも友達として大事に思っているカインとそういう関係になり、いつものように疎遠になって終わってしまったら。
今の友人関係すら壊れることになってしまったら。
そう思うと、レイムはどうしようもない不安に駆られるのだった。
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