鮮血の記憶

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  「……何を勝手なことばかり言ってやがる! リーズブルグ家のせいで、俺の家はこんな貧乏なんだ! 腹が鳴っても施しなんて受けられるか!」 うずくまっていた少年が、ブラールとリリーを睨み付けたまま言う。 それに対して、ブラールは高圧的な視線を崩さぬまま答えた。 「何を言う! リーズブルグ家は税の取り立てを任されているだけだ! 別に私腹を肥やしているわけじゃない! 払って当たり前の金を払わされて逆恨みとは、下等な庶民らしい浅はかな考えだな!」 「ブーちゃん、やめて!」 土を拭い、視力が回復したリリーが、ブラールと少年の間に入る。 そして流れたしばしの沈黙は、つんざくような悲鳴によって終わりを告げた。 「いや――っ! 何をしてるの!?」 聞こえた声は、大人の女性の声。 見ると、少年と同じように、みすぼらしい服を纏った女性が、物凄い形相で駆け寄ってくる。 どうやら、この少年の母親のようであった。 「申し訳ございません! リーズブルグ家のお嬢様に大変な無礼を! 本当に、本当に申し訳ございません!」 「全くだ! やはり下等な庶民は下等な教育しかしてないということが証明されたな!」 地に頭を擦り付けて謝罪する母親を見下すように言葉をぶつけるブラール。 しかしそれを、リリーは優しく制した。 「いいよ、ブーちゃん。……行こ」 ブラールの手を引くようにして、その場を離れるリリー。 「なんてことしてるのよ! リーズブルグ家は怖いのよ! こっちがどこに逃げても、鍵を開けて入ってきちゃうんだからね!」 微かに背後から聞こえた母親の叱責が、少年では無く、リリーの胸を刺し貫いた。  
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