鮮血の記憶

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  「全く、これで分かっただろ! 庶民などに気を許すからああいった事になるんだ! あいつらは、英才教育を受けている僕達とはまるで違う、短絡的な思考しか持ち合わせていない下等な生き物なんだ。何をしてくるか分からないんだぞ! もっと気をつけろ!」 俯いたまま早足でブラールの手を引くリリーを責めるように、ブラールがまくし立てる。 しかし、いつもなら食ってかかってくるはずのリリーだが、今日は沈んだ表情のまま、か細い声で返してきた。 「……リーズブルグ家ってさ。昔から税金を取り立てる役目を果たしてきたの」 「なんだいきなり。僕だってそのくらい知ってるぞ」 まるで会話の答えになってないリリーの発言に、ブラールが訝しげな表情を浮かべる。 しかしリリーは構わず、話を続けた。 「リーズブルグ家に代々伝わる能力は結界や錠の解除と施錠。だから昔から、徴税を免れようと家に閉じ籠る人が居ても、扉も金庫も無理矢理開けて、役目を果たすことができたんだって。でも、そんなことしてたら、恨まれたって当然だよね」 「そんなものは逆恨みだ。貴族だって税を払っている。リーズブルグ家はしっかり役目を果たしてきた。胸を張ればいいじゃないか」 「でも、私達は恵まれてるから、きっと何も分かってないんだよ……。あの子達の苦しみも、私達への憎しみも。お腹を空かせた人にパンを差し出してもはね除けられるなら、私には一体何ができるんだろ……。どうすれば、あの子を笑顔にできたんだろ……。分からないよ……」 震える声で語るリリーの瞳から、ポツリと滴が落ちた。  
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