鮮血の記憶

12/37
前へ
/37ページ
次へ
  「私さ……。父上に付いて徴税の様子を見に行ったことがあるの。素直に払ってくれる人も勿論いるけど、貧しい人達は必死で抵抗して、涙を流して……。私、そんな人が少しでも減ればいいなって。でも……」 「……ほら!」 ぼろぼろと涙を溢すリリーに、ブラールが不意にハンカチを差し出す。 面食らった様子のリリーを見て、ブラールは更に言葉を続けた。 「ほら! くれてやるって言ってるんだ! 泥だらけの顔で僕の横を歩くんじゃない! さっさと拭け!」 一気にまくし立て、リリーにハンカチを押しつけるブラール。 暫しの沈黙の後、ようやくリリーはハンカチを受け取り、微かに笑みを浮かべた。 「……ありがとう。ブーちゃん」 リリーは一言礼を言うと、ブラールのハンカチで自らの瞳を拭った。 「……リリー。僕には良く分からないが、理解などと言うものは、そんな一朝一夕で得られるものじゃないんじゃないか?」 「……えっ?」 「何十回も議論を重ねている僕達でさえ、お互いの事は理解しきれてない。だったら、庶民に理解されないのだって当然だ」 ブラールの言葉に、リリーは小さく頷いた。 「僕はお前の考えには全く賛同はできない。だが、わざわざお前の考えを否定するのは、今後は止めてやる。信念があるなら、根気よくやってみればいい。下等な庶民でも、いつかは理解すると思うぞ。まあ、せいぜい頑張れ」 「……うん。ありがとう、ブーちゃん」 ニッコリ笑うリリーと、ソッポを向くブラール。 そんな二人の様子を、ククリーは笑顔のまま見つめていた。  
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

59人が本棚に入れています
本棚に追加