鮮血の記憶

19/37
前へ
/37ページ
次へ
  ――ゴゥゥン!! 激しく叩きつけるような爆音が空気を震わせる。 慌てて窓から外を見れば、百メートルは離れているはずの正門の辺りから巨大な火柱が立ち上り、悲鳴と怒号が響いていた。 「な、なに!? 一体何が……」 「落ち着いて下さい、リリー様」 混乱するリリーをなだめながら、ククリーが慎重に外の様子を伺う。 正門の方角から次々とこちらに撃ち込まれる攻撃魔法が、侵入者の存在を如実に表していた。 「こんな良き日に誰がこのような無粋なことを……! リリー様、ここは危険です! 一旦裏門から外へ退避しましょう!」 「え、でも……」 「おつかまりください!」 戸惑うリリーをククリーが抱き抱え、長い廊下を駆ける。 屋敷の裏口を出れば、すぐに裏門まで辿り着くことができる。侵入者がまだ正門にかかずらっているうちに、リリーだけでも逃してしまいたかった。 正門には、二つ名持ちのガードマンを数名配備していた。 それを打ち倒したのであれば、相手は相当の手練れ。いくらククリーと言えど、リリーを庇いながら戦える自信は、さすがに無かった。 ともかく、何を置いても、一刻も早くリリーを安全な場所に退避させなければならない。 屋敷の中にまで届く悲鳴を振り払い、ククリーはただ、長い廊下を走った。  
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

59人が本棚に入れています
本棚に追加