鮮血の記憶

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  「ん……」 降り注ぐ光が瞼をくすぐり、少女はこの世界で始めての朝を見た。 空、草木、自分のいる部屋。 その全てが初めて見る物であったが、不思議と彼女はその存在を知っていた。 「目覚めたか」 ふと、どこからか聞こえた声に少女は左見右見する。 やがて、ベッドの傍らに立つ、六歳くらいの真っ赤な髪を持つ少年を見つけた。 「僕の名前はブラール。お前を造り出したのはこの僕だ」 ブラールが胸を張って得意気に話す。 少女は、その姿をきょとんとした表情のまま見つめていた。 「私は、あなたに造られたのですか……?」 「その通りだ。僕の嗜好に合わせて造られた身体に、僕が生命の源とも言うべき血液を流した。僕は、お前の産みの親なんだ」 「ブラール様の嗜好……?」 その言葉を聞いて、少女は自らの身体を眺めた。 白く滑らかなで肉付きの良い肌に、豊満な胸。 傍らに置かれているのはメイド服だった。 「嗜好……」 「何が言いたい!?」 「いえ、別に……」 ブラールの顔をじっと見つめて言う少女に、ブラールが語気を荒げる。 この時からブラールには、萌えだのなんだのと言い出す片鱗があったのかも知れない、と少女が思い返すのは、それから十年先の話であった。 「ま、まあ、お前の脳には一般的な知識は殆ど覚えさせてある。ともあれ、名前は必要だな」 そう言って、うーん……と考え込むブラール。 やがて彼が、何かを思いついたように手を打つと、何やら一人で頷きながら、少女を見た。 「ククリー……。お前の名前は今日からククリーだ。せいぜいよろしくな」 「ククリー……。素敵な名前です。どうぞこれからよろしくお願いします」 自信に満ちた笑みを浮かべるブラールに、深々とお辞儀をするククリー。 彼等の全てはここから始まったのだった。  
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