鮮血の記憶

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  ――パリィィィン!! 「……えっ!?」 結界の弾ける音に、ククリーが慌てて振り返る。 見ると、漆黒の鎧を纏った男が、リリーを抱えて立っていた。 年の頃は三十辺りだろうか。鎧と同じ黒髪は油で固めて後ろへ上げられており、まるで闇が口を開けたように深遠な瞳は、真っ直ぐにククリーを射抜いている。 「ご苦労だったなシャノカ。もう下がって良いぞ」 良く手入れされた口髭を揺らしながら、男がシャノカと呼ばれた魔族の少女に指示を出す。 シャノカは一瞬苦々しい表情を見せるも、「はい、ご主人たま」と一言返し、そのまま姿を消した。 「あなたが正門を襲った賊ですね……っ! あいつらが救世主と崇めていたのもあなたですか! リリー様を……リリー様を放しなさい!」 「それはできぬ相談だ。こちらにも建前というものがある」 怯えて何も言えないリリーを抱えながら、まるっきり表情を変えずに返す男。 その手に青く光る宝石が握られているのを、ククリーは見逃さなかった。 「それは洗礼の雫……っ!? まさかあなた、これを手に入れるために、あいつらを焚き付けたのですか!? 厳重に保管されてるこの宝石が表に出てくる今日という日を狙って……」 「……人聞きが悪いな。正義のためだよ。正義、のね」 クックッと噛み殺した笑いを浮かべる男に、ククリーは激しい憤りを覚えたのだった。  
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