鮮血の記憶

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  「正義? そのような錦の御旗を掲げて、あなたはどれほどの人間を惑わしたのですか!?」 「だから人聞きが悪いと言っている。確かにこの宝石には強大な魔力が込められていると聞くし、単純な価値で見ても桁違いだろう。だが、これはただのついでだ。この屋敷にある他の物は全て同志に譲るし、あくまで目的は……」 「……分かりました。もう、黙って下さい。殺しますよ?」 男の言葉を遮って、ククリーが静かな怒りに震えた声を放つ。 私欲のままに人の命を弄んだ挙句、自分を正当化することばかりに余念がないこの男に対し、最早憎しみ以外の感情は浮かばなかった。 男の腕の中で、恐怖に怯えた表情を浮かべるリリーに目を向ける。 本来なら、リリーとブラールが幸せな誓いを成すはずであった今日のこの日。 そんな大切な日に、こんなにもリリーを傷つけるこの男が許せなかった。 「ザルファーさん! あっちはあらかた掃討しました!」 不意に、数人の男が屋敷の裏口を抜けて、ククリーと対峙する男の周りに集まる。 その手にぶら下がってユラユラと揺れているモノを見て、リリーが悲鳴をあげた。 「ぱ、パパ……ママ……!? い、いやあああアアアアァァッ!!」 そう、それはリリーの愛する両親の首。 苦悶の表情を浮かべたままのそれを、男達は得意気にぶら下げていた。 「ご苦労。最後はこのガキだ。きっちり仕上げて、今日は勝利の盃を酌み交わそうじゃないか」 「うわあああああああ!!」 ククリーを押し止めていた理性が、音を立てて切れる。 両手一杯の金属球を放ちつつ、ククリーは男達に向けて、野獣の如くに駆け出した。  
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