鮮血の記憶

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  「ふん!」 ザルファーと呼ばれた男は、ククリーの放った金属球を結界で受け止めると、抱えていたリリーを脇に控えていた男達に放り、体勢を整える。 結界に激しくぶつかっては落ちる金属球を見つめ、ザルファーは静かに呟いた。 「なるほど。人形か」 「だから何だと言うのですか!」 ククリーが短刀を構えて跳躍する。 視線の先には、放心状態のリリーを乱暴に抱え上げてニヤニヤと笑う男達の姿。 両親の変わり果てた姿を目の当たりにしてしまったショックは、七歳の少女の心にどれほどの傷を刻んだのだろう。 ――守らなければならない。 せめてリリーだけでも、守らなければならない。 こんなに優しくて純粋な少女が、こんな所で人生を終えてしまうなど、あまりに悲しすぎるではないか。あまりに非情すぎるではないか。 ククリーの瞳に、決意の炎が宿る。 絶対に、負けるわけにはいかなかった。 「終わりです! アイス・ニードル!」 ククリーの周りに、幾つもの氷の刃が現れる。 決して魔力は高くなく、どちらかと言えば肉弾戦を得手とするククリーであったが、様々な形に作り替え、武器とすることもできる氷の魔法だけは、いざというときのために修練していたのだった。  
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