鮮血の記憶

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  「ククリー! どうして僕はいつもリリーにしてやられてしまうのだ! 僕はあんなに主張してるのに……」 ハインケル家を出て、秋の草が大地を飾る河川敷を歩きながら、ブラールがククリーに問いかけた。 既に日課となった、リーズブルグ家へ訪問するための道すがらだった。 「そうですね……。それはリリー様の方が大人だからではないでしょうか」 「なんだと! 僕が子供だって言うのか!」 ククリーから返ってきた答えに、ブラールは大きく眉を吊り上げる。 それを見たククリーはクスクスと笑いながら、諭すように言葉を続けた。 「ブラール様は、相手のお話を全く聞こうとなさいません。自分の主張を押し付けているだけなのです。反面、リリー様はブラール様の主張をきちんと聞いた上で、的確に反論している。その違いですよ」 ククリーの言葉に、ブラールが腕組みした。 「むう。よく分からないな。訴えるだけじゃ分からないことがあるのか……」 「まあまだブラール様もリリー様も六歳ですから。これからゆっくり理解し合えば良いと思いますよ。お二人は許嫁なのですしね」 「許嫁は父上が勝手に決めたんだ! 誰があんな女と……ん?」 反論するブラールが、道の先を見つめて、何かに気付いたような声をあげる。 その視線の先にいたのは、件のリリーだった。  
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