41人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
「なあ……シェリス」
不意に、目線は合わせぬままに、アルが口を開く。
ぽつりと発せられたその言葉はあまりに無機質で、鉛のような重みがあった。
「やはり、こんなことは間違っているのかも知れない。父上を騙し、こんな夕暮れまで遊び回って……」
「なあに言ってるのよ! 子供なんだから遊ばなくてどうすんの!」
サバサバと答えを返すシェリスに、アルが小さく笑みを向ける。
しかし、未だにその感情は安定しない様子で、またすぐに重苦しい表情に戻り、うつむいた。
「なあ、一つだけお願いしてもいいか?」
ふと、アルがやけに神妙な面持ちで、シェリスに向き直る。
その瞳は思わずドキリとしてしまうほどに大人びていて、どこか憂いを含んでいた。
「なあにー?」
対してシェリスは、いつもと変わらぬ口調で返す。
それがシェリスなりに気を使った結果なのか、それとも特に意味を持たぬことなのかは分からない。
分からないが、そんなシェリスの態度が、アルには嬉しかった。
最初のコメントを投稿しよう!