壱話

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月明かりが照らす、綺麗な夜桜がヒラリ、ヒラリと舞う季節の事… 「何か言い残す事は有るか?」 新撰組の羽織りを羽織った死刑執行人はそう聞くと、手を縄で縛られ、白装束に身を包み、腰の位置まである青空の様な綺麗な薄水色の髪を風に少し靡かせる人斬り“狭山魅火戯(さやまみかぎ)”は首を横に軽く振った。 「言ったてどうせ伝えない癖に…」 顔に白い布を巻いている隙間から琥珀の瞳は執行人を睨み付けた。 「はっ!今の貴様に睨まれても痛くも痒くも無いな‥。明朝までには少し時間が有る…少し話をしようぜ。抜刀斎さん♪」 執行人は肩を揺らしクックック…と笑った。魅火戯は更に睨み付けた。 「断る! 此の外道が…!」 「外道?其れは貴様だろう…」 「っ!」 執行人は魅火戯の顎をクイッと上に向け見つめる体制にとると、布を上にめくった。其処にはとても美しい魅火戯の顔があった 「惜しい…実に惜しいぜ。貴様が只の女だったら俺も副長も手を出していただろうぜ…」 「手を離せ!!」 「おぉ怖い怖い。貴様なら首だけになっても噛みついて来そうだな‥」 執行人はパッと手を離した。 「貴様の犯した罪が処刑だけで済んで良かったなぁ。数多の町、村の民を皆殺しにするなんて…其れも女、子供、赤子にさえ容赦なく。憧れるぜ其の図太い神経」 「黙れ」 魅火戯はボソリと呟いた。執行人はまたクックック…と笑い魅火戯を見下ろした。 「本当の事だろ?兄貴の仇だが吉田の仇だが知らないが、クックッ!貴様もつまらん人生を送ったな。」 「黙れ!兄様を見殺しにし、先生までも殺した幕府なんて!!…村や町の奴等なんて!!…皆…皆滅んじまえ!!」 魅火戯は眼に涙を溜叫んだ。執行人は足を振り上げ魅火戯の腹の溝をドスッと思いっきり蹴った。 「っっ!?…ゲホッ!ゲホッ!」 「口を慎め。どんな理由があったとしても所詮罪人は罪人だ。」 執行人は魅火戯を見下ろすと、東の空を見た。空は月が沈みかけ太陽が上がろうとしていた。 「時間だ…」
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