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しかし、この和尚は秩やゆきを見かける度に声を掛けてくれる。
そして和尚は分け隔てない出来た人として壬生界隈でも知られた人物だ。
そんな和尚の噂があるからだろう、早朝に光縁寺の前を通ると弔ってやる金が無かった骸が寝かされている事がある。
和尚はそんな骸を一つ一つ丁寧に弔い、寺の片隅に埋葬してやるような人であった。
「蓮どすか、そらええ。
そや、一蓮托生ちゅう言葉をしっていまっしゃろか?
仏教からでた言葉なんやけど、愛しあうもん達は死後、極楽浄土に往生しおんなじ蓮ん花の上に仲よう身を託すちゅう意味どす。
秩はんはまや若い。そない相手に恵まれるとええどすなぁ」
「そないなことあらしまへん。それにうちにはゆきがいます。
ゆきと仲よう、ひっそりと生きていければそれやけで十分どす」
「そやの。そら欲んあらへん事をゆー」
和尚がそう言って小気味よい笑い声を立てた時だった。
「和尚、話し中悪いが総司を見なかったか?」
低い押えた声で和尚と秩の話に割り込む者が居た。
「おや、土方はん。そない言うたら、さいぜんお子達が走って行ったんやが、沖田はんの姿は見まへんどしたな」
「そうか、悪かったな」
土方と言われた男は渋い顔のまま立ち去ろうとしたが、それを和尚が呼び止める。
「土方はん待っておくれやす。此方んお嬢はんをご存知どすか?
浜崎はんとこんの秩はんや」
秩はトクの言った「掃き溜めの鶴」を思い出して、こっそりと土方の顔を見ていた。
だが和尚の紹介で突然自分に視線を向けた土方と目が合い、慌てて右頬を押えて俯いた。
それを見た土方の渋かった顔が尚更に渋さを増す。
「アンタが噂の秩さんか。ウチの若いのが、えらく美人だと騒いでいたが、そうでもねぇな。
第一に人と目が合って、直ぐに逸らすこたぁねぇだろう。
アンタの右頬のアバタなんざぁ隠す程のもんじゃねぇよ。
その、湿っぽい態度をなおさねぇと、美人とは言えねぇな。
まぁ、此れから世話になるだろうし、宜しく頼む」
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