第九話

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 布団を必死の形相で掻き寄せ、自身を隠そうとする秩の手を沖田の冷たい手が止めた。 「あかん。離しいや」  弱々しい秩の拒絶の言葉ごと沖田は抱き締めた。  自分の腕の中でそれでも尚非力な抵抗を続ける秩に、沖田は安堵の溜息を吐く。 「秩さん、いえ秩。貴女はどうしようもない阿呆です。  でも私にはどうしようもなく可愛い女(人)です。  秩、私にはどんな姿になろうと秩が一番綺麗に見えるんですよ。  どんなに醜くてもそれが秩なら、私には綺麗で愛しい」  秩の抵抗する力が感じられなくなった。  沖田は腕の力を抜くと、そっと秩の顔を覗き込む。  そして何時ものように秩の頬に指を走らせた。 「秩の一部なら、このアバタも綺麗で愛しいと何度も教えたのに・・・  秩は阿呆です」 「総司はん・・・」  漸く顔を上げた秩を見て、沖田の顔が険しくなった。  すぐさま腕の力を強め秩を胸に納め直すと、沖田は部屋を見回した。  それは乱れた布団に同化するようにあった。  沖田は恐る恐るそれに片手を伸ばす。  それには沖田の見慣れた色が染みついていた。 「秩さん、貴女は本当の阿呆です」  沖田の腕の力が緩み顔を上げた秩の目に映ったのは、何処までも悲しい沖田の顔だった。  秩の目が沖田の手元へと流れる。その沖田の手の中にある物を認めると、秩が小さな悲鳴を上げた。 「あかん」  それは先程まで自分が口元に充てていた手拭いだった。  沖田は秩が顔を上げた僅かな瞬間に、秩の唇の端に残った血の跡に気が付いて居たのだった。 「何故言わなかったのです・・・   私が信じられませんでしたか?」 「ちゃう。せやあらへん・・・」 「では何故?」 「ウチは、総司はんのやっと出来た家族でっしゃろ? ウチは、また総司はんから家族を奪ってしまうんやろ?」
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