第九話

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 浜崎邸の慶応三年の正月は賑やかに明けた。  それは沖田が浜崎邸で正月を迎えた事に加え、年末に信太が志乃との再婚を許された事が要因だった。   「信太さん、祝言は挙げるんですか?」  沖田が信太に問う。 「そらあらしまへんね。二度目どすからね。身内やけで宴会して仕舞いでっしゃろ」 「そう言うものですかね」  信太も志乃との事が上手く行き、心に余裕が出来たのか本来の穏やかな性格に戻っていた。  座敷の床の間に飾られたお鏡や旭日に飛鳥の掛け軸が新春のめでたさを醸し出している。  おとそで顔を赤くした新三郎は、膝にキョウを抱えてご満悦な様子だ。   その新三郎が突然手を叩くと 「そやええ事を思いつきおした。  総司はん、秩と祝言を上げよし。  と言うても、頑固モンの近藤はんの許しは中々出へんやろうから、それこそ真似事やけど、こん所秩も落ち着いとるようやし。  ええでっしゃろ」 「そらええね。あんさんたまにはええ事しゃべるではおまへんか」  トクはそう答えるとゆきを連れてそそくさと座敷を出て行った。  それに面喰ったのは沖田に寄りかかり話を聞いて居た秩だった。 「おとうはん、そら総司はんにやくたいや」 「秩、何を言ってるんですか? 迷惑じゃないです。  むしろお願いしたくらいです。  新三郎さん、本当に良いんですか?」  新三郎は得意顔で頷く。 「ええに決まってます。そないでなければ言よりまへん」  そこへ大きな行李を抱えたトクとゆきが戻って来る。  ニヤニヤとするトクとゆきが少々気味悪い。  秩が恐る恐る尋ねる。 「おかあはん。そらなにどすか?」  トクはニヤリと笑うと、勿体付けるように行李を次の間に運び、ゆっくりと開けた。 「うちが着たモンやかて、多少直せば秩にちょうどええでっしゃろ。  ゆきも七つにならはったし、手伝ってくれるでっしゃろ」
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