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祝言自体は秩の身体を考慮して出来るだけ簡素化されたものだった。
そうだとしても秩にとっては忘れられない物となった。
秩は細くなった身体に白無垢は似合わないかもしれないと不安になっていたが、実際は美しい花嫁となった。
出席者も少なく秩の事情を知った者だけの式であり、皆片肘張った様子は無かった。
宴が始まればそれは顕著に表れる。
新三郎が今日は無礼講だと宣言した途端に原田が立ち上がった。
「俺の出番だぜ」
そう言ったと同時に紋付の前をはだけ、上半身裸になる。
その腹には一体いつから準備していたのだろうか、見事な顔が描いてあった。
原田が唄えと雄叫びを上げると、永倉と井上が唄い出す。
それに合わせ原田が腹踊りを始めると、浜崎邸の座敷は笑いに包まれた。
こんな調子で祝言は穏やかに終わりを迎えようとしていた。
皆酒を飲み、楽しげに話して居る。
それを上座で見ていた秩の前にドカリ土方が腰を下ろした。
「秩、似合ってるじゃねぇか。おめでとう。
お前に一つ礼を言わなきゃならん。総司が良い顔をするようなった。
これはお前にしか出来なかった事だ。それに、可愛い娘もな。
これからも総司を頼む」
土方はそう言って秩に頭を下げた。
土方の思い掛けない話と態度に秩は涙を流す。
今となっては沖田の重荷にしかなって居ない筈の自分に、土方は礼を言い頭を下げてくれる。
そしていつ尽きるとも分からない命の自分に、沖田を頼むと言う。
土方だって自分の病は知っているはすだ。
秩は滲む視界のままで土方を見る。
「おおきに。ウチが居なくなった後は、土方はんに総司はんをお頼みします」
土方は小さく頷くと
「覚えておこう。
だがな秩、石に噛り付いても生きろ。
彼奴を置いて逝くんじゃねぇぞ」
そう言って立ち上がった。
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