第九話

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 祝言が終わり一月もすると、秩の病状は目に見えて進行したように思えた。  巷では桜の蕾が膨らみ、今年は何処で花見をするか等と話題が上っていた。  御多分に漏れず浜崎邸でも花見の話は出ている。  しかし、秩の身体に如何に負担を掛けずに花見に行くかが問題だった。 「何処が良いんでしょうね?」 「近くなら六角堂がええやろう。ゆっくり歩いても四半刻もあれば十分や」 「そうですね。そうしましょう」 「お弁当はウチとおばあはんで作る。ええやろ?」  七つになり母親が病に侵された所為か、随分しっかりしたゆきが言う。  皆が秩にとって最後の外出になるかもしれない花見の為に、出来る事を考えて居た。  そして秩はそんな家族に囲まれ、細やかな幸せを噛み締めていた。 「秩、明後日頃には満開になるそうですよ」 「へー、楽しみどす」 「花見が終われば直ぐにキョウの初節句ですし、のんびりして居られませんね」 「ホンマや」  身体が思うように動かず、大した事の出来ない自分が歯痒いものの、その分沖田が細やかな心使いを見せてくれるのが救いだった。  秩の体調が悪く出来なかった初宮参りも、それでは可哀想だとつい先日、百日参りとして皆で行って来た。  トクが準備すると言うのを断り、沖田がキョウの為に用意した掛け着は、鈴蘭の刺繍の施されたものだった。 「ねぇ、秩。幸せだとは思いませんか?」 「幸せどす」  日々の細やかな事が滞り無く過ぎて行く事が幸せだと思えた。  特別な事は無くても、皆が笑って過ごせる事で十分だった。 「秩、疲れたでしょう。少し休みましょう」 「へー」  沖田がそう言うと、今迄秩の部屋の縁先で話して居た者達が腰を上げる。 「ほな、秩また後で」 「おかあはん、ゆっくり休んでね」  思い思いに秩に声を掛けて母屋へと引き返していく。
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