第九話

14/14
前へ
/178ページ
次へ
「総司はん、ウチはこん桜見たいに美しく力強く生きられたやろか?」 「はい。それに秩は未だ生きています。  最後まで秩は秩のままで居てください」  信じたものを最後まで愛し抜く強さを持って居てください・・・  沖田はその言葉を呑み込む。 「秩、少し歩きましょう」  大して広くもない六角堂の中を時間をかけて歩く。  本堂や太子堂、へそ石を眺めて最後に辿り着いたのは、立派な柳の前だった。 「秩、この柳の事を知っていますか?」  秩は緩やかに首を横に振る。 「この柳は地すべり柳と言うそうですよ。  そしてこの柳には逸話が有りましてね。  平安の昔、妃を望んでいた嵯峨天皇にお告げがあったそうです。  この柳の下を見なさいと、嵯峨天皇が慌てて駆け付けてみれば、柳の下には絶世の美女がいて、その美女を妃に迎えたと言うんです。  それからこの柳は縁結びの柳として有名になったんだそうです」  沖田は秩の手を取ると、おみくじをひいて私達も柳に結びましょうと言って歩き出す。 「総司はん? ウチラはもう結ばれてますよ」  沖田は悪戯な笑顔を秩に向ける。 「はい。ですから、来世も、そのまた来世も、何度転生しても結ばれるように願うんです」  秩は沖田にすがり付くと場所も憚らずに泣いた。  未だ自分達には先があると単純に思えた。  沖田の言葉は秩に希望を与える。  総司はん、愛しています。  きっと何度転生しても、幾度出会っても、ウチは必ず総司はんを愛します。  柳の枝が春の心地よい風に吹かれ、サラサラと音を立てていた。  
/178ページ

最初のコメントを投稿しよう!

508人が本棚に入れています
本棚に追加