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「総司はん、ウチはこん桜見たいに美しく力強く生きられたやろか?」
「はい。それに秩は未だ生きています。
最後まで秩は秩のままで居てください」
信じたものを最後まで愛し抜く強さを持って居てください・・・
沖田はその言葉を呑み込む。
「秩、少し歩きましょう」
大して広くもない六角堂の中を時間をかけて歩く。
本堂や太子堂、へそ石を眺めて最後に辿り着いたのは、立派な柳の前だった。
「秩、この柳の事を知っていますか?」
秩は緩やかに首を横に振る。
「この柳は地すべり柳と言うそうですよ。
そしてこの柳には逸話が有りましてね。
平安の昔、妃を望んでいた嵯峨天皇にお告げがあったそうです。
この柳の下を見なさいと、嵯峨天皇が慌てて駆け付けてみれば、柳の下には絶世の美女がいて、その美女を妃に迎えたと言うんです。
それからこの柳は縁結びの柳として有名になったんだそうです」
沖田は秩の手を取ると、おみくじをひいて私達も柳に結びましょうと言って歩き出す。
「総司はん? ウチラはもう結ばれてますよ」
沖田は悪戯な笑顔を秩に向ける。
「はい。ですから、来世も、そのまた来世も、何度転生しても結ばれるように願うんです」
秩は沖田にすがり付くと場所も憚らずに泣いた。
未だ自分達には先があると単純に思えた。
沖田の言葉は秩に希望を与える。
総司はん、愛しています。
きっと何度転生しても、幾度出会っても、ウチは必ず総司はんを愛します。
柳の枝が春の心地よい風に吹かれ、サラサラと音を立てていた。
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