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叩かれた男は笑いこけていた顔をなんとか引き締めて挨拶した。
「俺は永倉新八だ。この佐之助と同じ壬生浪士組の者だ。何かと時には頼むな」
ニカリと笑う顔は、あの壬生狼と呼ばれる荒くれ者達の一人とは到底思えない程に人の良さそうな顔である。
「へー、此方こそよろしゅうおたんみいたしやす」
秩と永倉が挨拶を交わしている横で小の男が、未だ治まらない笑い声をたてていた。
「ブッ、フフ・・・ 土方さんが・・・ おっさん・・・ ブッ」
その男を原田は呆れたように見下ろすと、面倒くさそうに指さして言う。
「あれは、藤堂平助。ああ見えても怖い物知らずな男だ。
多分一番世話になるかもしんねぇ。そん時は適当にツバでも着けといてやってくれよ。
そう簡単には死なねぇから」
原田の言う事に藤堂が反論しようとするが、中々収まらない笑いが邪魔をする。
「フフ・・・ 佐ノのくせに・・・ ヒヒ・・・
言うよね・・・ 死に損ないは・・・ 佐ノでしょっ」
「そりゃ、間違いねぇや」
藤堂に永倉が同意すると、原田はチラリと目を永倉に向けて突然諸肌を脱ぐ。
「俺の腹は金物の味を知ってるんだ。そこいらの柔な腹とは違うんだぜ」
引き締まった上半身をさらし、得意気に腰に手を当てた原田の腹を見れば、臍の下辺りに真一文字の傷痕がある。
刀傷等見たことの無かった秩はどう反応して良いか分からず、パチパチと瞬きするしかない。
その秩の横では、折角泣き止んだゆきが口をへの字に曲げる。
「馬鹿佐ノ! 天下の往来で何て事しやがる。早くしまえ、見苦しい」
秩とゆきの様子に気が付いた永倉が頭一つ分背の高い原田の後頭部を、平手で叩き付けた。
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