第十話

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「総司はん、ずっと幸せでおってや。  すずらんの小さな幸せを感じて生きておくれやす」 「はい、それは秩さんも一緒ですよ」 「へー、総司はん。すずらんはまや咲いてるんでっしゃろか?」 「のんびり屋さんなら咲いてるかも知れませんね」 「もういっぺん見たかったな・・・」  秩はそう呟くと吸い込まれるように眠りに着いた。    壬生村に来て僅か四年程の間に、秩の人生は大きく変わった。  出戻り、ゆきを育てる事だけに必死になっていた事が、今では信じられない程だ。  秩は眠りの中で沖田に話し掛けていた。  今なら初めて会った時に、総司はんが顔を曇らせた理由が分かるんどす。  新選組と関係のおます浜崎ん家んモンと知って、お子達に沖田総司やと知られるん事を心配したんやね。  それが総司はんの全てなんどすやろ。  鬼やなんて言われてるやけど、そら総司はんが守ると決めたモンん為。  ホンマは優しくて子供っぽい所んおますただのおとこしはんや。  ちびっといけずで、やて温かい人。  ウチは総司はんに逢えて、キョウを授かって、幸せどしたよ。  それにゆきにとってもええおとうはんどす。ちびっと甘いけど。  総司はんの側は、いつも時間がそろっと流れてたんや。  温かで酷く優しくて、それやけで涙が出そうな程に・・・  そない総司はんやから、うちは安心しいて娘達を預けて逝けるんどす。  総司はんなら心配ないと信じられるから・・・  ウチは幸せどした。  人から見ればなんて事あらへん小さな幸せかもしれへん。  かな小さなすずらんの花に収まるような幸せやて、ウチにとっては大事なモンどした。  総司はんは幸せどしたか?  きっと総司はんは幸せどしたと答えてくれますやろ?  小さな幸せを感じる事ん出来はる人やから。  有難うおました。  娘達を宜しゅう頼んますえ。  いつも強うて優しい総司はんで居ておくれやすね。  どうか、来世やて総司はんに巡り逢えますように。  それまで、一日一日を慈しんで力ん限り生きておくれやす。  愛しいています。  総司はん・・・
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