第十話

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 秩が眠る浜崎邸の離れでは神妙な顔付きで皆が揃っていた。  秩の六帖程の部屋には、トクや新三郎。  信太にゆき、キョウと眠る秩を囲むように座って居た。 「なんやって秩がこないな目に遭わんといかんのや」  新三郎が悔しさを隠そうともしないで畳を殴り付けた。 「アンタ、落ち着いてや。皆そう思てる」 「医者は今夜が峠や言うておましたな」 「・・・おかあはん・・・」  それぞれに沈痛な面持ちで居る中で、母の状況を理解できないキョウだけがニコニコとしていた。 「そう言えば、総司はんはどないしたんや?」 「へー、センセを送って行かはって、未だ帰っとらんのどす」 「センセの所なんぞ半刻あれば戻れるやろ」  沖田が浜崎邸を出て、既に一刻が経とうとしている。  西の空にはやけに赤い夕日が沈もうとしていた。  皆、薄くなった秩の胸の動きを祈るような思いで見ていた。  次第に部屋が闇に染まって行く。  秩の微かな呼吸をする音に耳を済ませ、儚い命を感じようとする。 「トク、灯りを持ってきとくれやす」  新三郎に言われて漸く気が付いたようにトクが立ち上がった。  ヨロヨロとした足取りでトクが出て行く。  そのトクを助けるようにゆきが付き添う。 「おばあはん、ウチもてったう」 「ええんよ。おかあはんの側に居てやりなはれ」 「ううん、おばあはん疲れてはるやろ。  ずっとおかあはんに着いてくれてるんやもん」  互いを思いやり、秩を気に掛けながらも灯りを取り行く。 「おとうはん、何してはんのやろ・・・」  ゆきが小さく呟いた。
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