508人が本棚に入れています
本棚に追加
秩が眠る浜崎邸の離れでは神妙な顔付きで皆が揃っていた。
秩の六帖程の部屋には、トクや新三郎。
信太にゆき、キョウと眠る秩を囲むように座って居た。
「なんやって秩がこないな目に遭わんといかんのや」
新三郎が悔しさを隠そうともしないで畳を殴り付けた。
「アンタ、落ち着いてや。皆そう思てる」
「医者は今夜が峠や言うておましたな」
「・・・おかあはん・・・」
それぞれに沈痛な面持ちで居る中で、母の状況を理解できないキョウだけがニコニコとしていた。
「そう言えば、総司はんはどないしたんや?」
「へー、センセを送って行かはって、未だ帰っとらんのどす」
「センセの所なんぞ半刻あれば戻れるやろ」
沖田が浜崎邸を出て、既に一刻が経とうとしている。
西の空にはやけに赤い夕日が沈もうとしていた。
皆、薄くなった秩の胸の動きを祈るような思いで見ていた。
次第に部屋が闇に染まって行く。
秩の微かな呼吸をする音に耳を済ませ、儚い命を感じようとする。
「トク、灯りを持ってきとくれやす」
新三郎に言われて漸く気が付いたようにトクが立ち上がった。
ヨロヨロとした足取りでトクが出て行く。
そのトクを助けるようにゆきが付き添う。
「おばあはん、ウチもてったう」
「ええんよ。おかあはんの側に居てやりなはれ」
「ううん、おばあはん疲れてはるやろ。
ずっとおかあはんに着いてくれてるんやもん」
互いを思いやり、秩を気に掛けながらも灯りを取り行く。
「おとうはん、何してはんのやろ・・・」
ゆきが小さく呟いた。
最初のコメントを投稿しよう!