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秩の睫毛が小さく震えた。
やがてゆっくりと瞼が持ち上がる。
「秩、見えますか?」
虚ろだった秩の目が空をさ迷い沖田で止まる。
口元が歪んだ所を見れば見えて居るようだ。
沖田は胸元にあったすずらんを握らせた秩の手を、秩の目の前に持っていく。
「ほら、すずらんですよ」
秩は目を細めた。
「ホンマ・・・ すずらんどすなぁ・・・」
意識を集中していなければ聞き逃しそうな声だった。
「ゆきとキョウは?・・・」
ゆきがくぐもった声で返事をすると秩の近くへ寄る。
キョウはトクが抱き上げて秩の見える所へ移動した。
それを見ると秩は沖田に頼む。
「総司はん・・・
起こして・・・ おく・・・」
秩がみなまで話す前に、総司の手がごつごつとする秩の体を、横抱きに抱え起こす。
「これで良いですか?」
小さく瞬きして沖田に返事すると、途切れる声で秩は話した。
「ゆき・・・ キョウ・・・
ええ子で・・・ 幸せん・・・ なって・・・」
「へー、おかあはん」
未だ七つだと言うのに、ゆきは目にいっぱいの涙を溜めながら気丈に耐えていた。
秩はそのゆきの強さに安堵しながらも、心の中で頭を下げた。
無理させて、こないなおかあはんで、すんまへん。
許しておくれやす。
そして、キョウを頼んます。
トクに抱かれ寝るキョウに視線を移す。
キョウはきっとウチん事覚えてないやろね。
やて、キョウは大事なウチん娘や。
ちゃんと見てますぇ。
早よう大きなって、ゆきを助けてな。
「信太はん・・・ 志乃はんを・・・
大事にして・・・ おくれやす・・・
やっかいばかり・・・ すんまへん」
「なんを言うんや。わての方こそ、辛くあたってすんまへんどした」
「ほな、おあいこや・・・」
信太がクシャリと顔を歪める。秩はそれから目を離すと、
「おとうはん、おかあはん・・・
ウチを浜崎の家に・・・ 入れて・・・ くれて・・・
おおきに・・・ 楽しかったぇ・・・ ホンマ、おおきに」
そう言って、目を閉じて小さく息を吐いた。
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