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そしてその様子から最近では、壬生狼と言われる程に恐れられていた。
「あの、そん壬生狼が頼んで来はったモンなんやろか?」
「そや、壬生狼や」
京と言っても外れも外れの田舎から出て来た秩にすれば、壬生浪士組だの壬生狼だのと言われても今一想像がつかない。
しかし、荒くれ者の集まりだと言う事だけは分かった。
「で、どないな事なんやろか?」
トクが言うには壬生狼の副局長と務める、土方歳三とやら言う男が四月の中頃に突然訪ねて来たらしい。
土方はまるで掃き溜めの鶴のように、むさ苦しい壬生狼の中に一人歌舞伎役者が紛れ込んだかと思うような色男だと言う。
その土方が浜崎邸の主人・新三郎に、浜崎邸を壬生浪士組の医科手当所にしてもらいたいと頭を下げたようだ。
勿論、新三郎はその申し出を断った。
同じ壬生村に生活する者だとしても、壬生狼と関わるのはまっぴら御免だ。
出来るなら直ぐにでも壬生村から出て行ってもらいたいとさえ思って居たのだから無理も無い。
しかし、土方は引き下がる事をしなかった。
毎日通いつめ新三郎に頭を下げ続けた。
一週間ほどそんな事を繰り返した頃、新三郎は土方に問うた。
「なんであんさんは、其処まどするちゅうわけや?」
その新三郎の問いに土方は照れ臭いのかぶっきら棒ながらに、真面目に答えた。
「先日、阿比類鋭三郎と言う隊士が病で亡くなった。恥ずかしい話だが、屯所が狭い所為でゆっくりと寝かせてやる事も出来なかった。
俺達は、夢を叶える為に此処へ来たんだ。病で倒れてる暇はねぇ。
だが、倒れちまった仲間に何も出来ず、手を拱いているのも御免だ。
そこで浜崎殿に頼みたい。病や傷を負って動けなくなった者の面倒を見てもらいたい。薬草に詳しいと聞いた。
その力、俺達に貸してもらいたい。頼む」
形振り構わずとはこの様な事を言うのかと思う程、土方は深々と新三郎に頭を下げた。
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