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こればかりはどうしようもない、我慢するしかないのだ。
慣れた手つきで髪をかき上げていれば、扉の開く音と共に金属のはじかれる音がした。
いつものことなので、そちらを見ずに受け止めると、手にあるのは自身の髪留めだった。
かちりと音をたてつつ、髪を結べば毛先が膝くらいにまであがる。
ようやく扉の方を見れば、茶色の逆立った髪の男がいた。
「何時も出向かえごくろーさん」
「厭味かお前」
ブンッと振られた拳を身体をずらすことで避ければ、小さな舌打ちが聞こえた。
「で、どうだったんだ?真麒」
「どうもなにも、いつもと同じ気持ちの悪い光景が広がってたさ」
男―猿(ましら)の質問に、もったいぶる様に応える。
それを見抜いたように、猿は笑った。
「それだけじゃあねぇんだろ?」
「ククッ、やっぱりお前には分かるか」
猿とのやり取りに、喉の奥で笑う。
やはり、こいつとは付き合いやすくて、楽しい。
「いくつから付き合ってやってるんだと思うんだ?分かりやすいぐらいに分かるわ」
肩に腕が回り少し歩きづらいが、そのままの状態で扉くぐる。
カツカツと、時折瓦礫を踏み崩す音が、建物内に響く。
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