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荒れ果ててはいるが、未だその原型を留めているこの工場は、思いの外広い。
従業員のためにと配慮されていたのか、はたまた労働基準法を無視したものだったのか、工場の北側は3階建ての宿泊施設だ。
2人部屋がずらりと並んでいて、全ての階に部屋が6つずつある。
2階と3階には、工場の南側の生産塔に繋がる渡り廊下がついており、生産塔と宿泊塔を行き来することが出来る。
この工場、なぜか庭が存在していて、木が向かい合うようにして工場を囲むように配置されている。
しかもご丁寧に、北側にはイチョウやみかんなどの食い物がなる木を、南側には桜や梅、楓などの外見の良い木が植えてあった。
何とも分かりやすい思考である。
この工場の気候条件に土壌の状態も良いため、水さえ撒けば、勝手になるのだから利用しない手はなかったのだろう。
その御利益に、俺たちも肖っているので、文句は言わない。
工場の生産塔の1階にまで下りると、奥のほうにある部品室に向かう。
「で、何かあったんだろ?」
猿が、ポケットに手を突っ込みながら歩いている。
その顔は、ニヤニヤというより、面白いものを見つけた少年のような顔だった。
図体(ずうたい)は、実年齢に似合わないほどでかいのに、心だけは年相応というべきか。
俺よりも顔1つ分高い猿を見上げながら、言う。
「…今日の新人訓練の監督役が、将校と中将クラスの奴がいた」
「…まじかよ」
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