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だけど恥ずかしくて本音を言えるはずもなかった。
キスだって、して欲しいってずっと思いながら待ち続けて。その上、エッチまで望んで待ち続けてるなんて……まるで自分が痴女にでもなってしまったんじゃないかって思う。
――こんな気持ちをもつ私って、おかしいの?
誰かに聞きたいのに、そんなこと聞けるはずもない。自分の中で渦巻いていく何か分からないモヤモヤにまた蓋をしたくて、私はギュッと目を瞑ってからゆっくり瞼を開いた。それから、なるべく不自然じゃないように軽い口調でお願いを口にした。
「ちぃくんのお家、行ってもいい?」
あんなに何度も行っていたのに、誕生日にお邪魔して以降ちぃくんのお家には行っていなかった。今さら行っちゃいけない理由なんてない、と思いたい。けれど、私から会う場所をちぃくんの家に指定することも憚られて、ずっと行くことなんてなかった。だからのお願い……ちぃくんの部屋で二人になれたら、何か変わるかもしれない。
『え……』
「駄目、かな?」
『あ、いや……ダメじゃ、ないよ?』
ダメじゃないと言いながら、どこか歯切れが悪いちぃくん。それが分かっていながらも、私も引くことが出来ない。これは、私の賭けだから。
「あの、あのねっ。宿題! そう宿題を、一緒に、やりたくて」
『……あぁ、宿題か』
「うん、そう」
『分かった。でも数学は止めてね』
「えー、数学が困るのに」
『あはは。ことちゃん、変わらないね』
なんとか怪しくなった雲行きを軌道修正して、ホッと息を吐く。落ち着かない空気が緩和されたせいか、ちぃくんの口も軽くなった。
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