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「分かった、出てくから。……あんま大声で泣くと、父さんが心配するよ」
皇星はそう言ってから体を屈めると、投げつけたぬいぐるみを手に取って私の手元に向かってポイと投げた。
それを咄嗟に手を出して受け止めてギュッと握りしめる。
バタン
扉が閉まる音と同時に弟の姿が消えて、私は一瞬息を止めてから吐き出した。
ヒクッとしゃくりあげながら、肩で息をしているのを感じる。意識をしてゆっくり呼吸をしてから手元のぬいぐるみを見ると、いつもと変わらないつぶらな瞳で私を見つめ返していた。
その邪気のない表情に、引っ込んだかと思った涙がまた目尻に溜まった。
「ごめん、ごめん、ね……」
咄嗟に千歳って呼んだのは、瀧本さんへの対抗意識だって自分でも分かってる。言いながら私にはやっぱりしっくりこない呼び方だって思った。
背伸びしたってどうしたってあの人には敵わない。
過去は消えないし、自分は早々変わらないし。
ただ言えるのは……大嫌いなんて叫んでしまったことの後悔と、やっぱりちぃくんが大好きだってことだった。
でも今は何も考えたくなくて、昨日と同じいようにタオルケットに潜り込むと、昨日よりもさらに大粒の涙が零れて止まらなかった。
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