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 『千歳なんか大嫌い!』  大好きな彼女が初めて怒りながら、初めて自分の名前を呼び捨てにして、初めて大嫌いと言った。  大嫌いに至っては、他人から言われたことそのものが人生で初めてかもしれない。  あまりにも信じられない出来事に、プーップーッと通信が途絶えているのを理解しながらも、放心状態でしばらく固まっていた。ようやく現実に戻ってきたのは彼女の声が聞こえなくなってからどれくらい経った頃だろうか。  「ハハッ、あははははっ」  なぜだか乾いた笑いが出てきて、止まらなくなった。  不思議と悲しさはなくて、どことなく嬉しいような、それでいて楽しい気持ちになっていた。  「喧嘩、だよな」  そう呟いてまた、はははっと笑ってしまう。  俺とことちゃんは世間一般で言うところの『順調な交際』を続けていると思う。ただしそれは、あまりにも順調すぎて逆に不自然なほどだった。  付き合い始めまではお互いの存在が不明で不安定だったものの、付き合う形に至ってお互いの存在を明かしあってからはなんの柵もなく、一点の問題すら感じないほどに穏やかに過ごしていた。  いや、一点の問題も……は言い過ぎかもしれない。俺にとっては切っても切れないほど、無視したくても無視できない『年齢の壁』があった。  ただしそれは俺一人が勝手に感じていることで彼女は気にしていないかもしれない。
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