32人が本棚に入れています
本棚に追加
ぴきり。
「桃井先輩......?」
突如桃井の体から立ちのぼる殺気。
冬でもないのに吹雪が吹いたような肌を刺す悪寒。
咲良は肩を抱いて身震いした。
「あいつ......、殺してやる」
「え!?せ、先輩、早まらないで!」
「いらない」
桃井はすくりと立ち上がった。
大きな瞳に冷たい炎をたぎらせ
壁に拳を打ち付ける。
地を揺るがすような粉砕音。
青ざめた咲良の頬に、ぱらぱらとした壁の破片が降りかかった。
「僕の伊織を傷つける奴、
......いらない。」
血が滴る手の甲をぺろりと舐め上げ
桃井竜二は不敵に微笑む。
「あんたもそう思うだろ?」
真っ赤に染まり、てらてらと光る唇。
今に噛みついてきそうで
目が離せなかった。
「そうだ」
桃井は唇を舌で拭って言った。
見方によれば舌舐めずり。
きっと、
食べられてしまっても
おかしくない。
「あんたがいなければ、伊織が傷つくこともなかったかもしれないね」
背中の筋がぞくりとした。
怖いからじゃない。
目を細めて首を傾げてみせる桃井の
あまりの愛らしさに。
白い首元でさらさらと音をたてる栗色の髪。
狂気的に光る青みがかった瞳の甘いこと。
映画の画面から抜け出した
美しい復讐代行者のような艶姿。
「......逝っとくか?咲良」
首に細い指を掛けられ
ため息混じりにそう聞かれれば、
構いません。
言ってしまいそうになるのが
魅了天性、桃井竜二の支配力。
最初のコメントを投稿しよう!