3.㌣アンダーシティ・ボーイズ

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「あんた、何が好み?」 くすくす。 無垢な少女のように くすぐったい声で笑いながら 咲良の唇に誘いをかける。 「絞死?それともショック死? それとも......、窒息死か?」 その顔を見ていて、 ぼんやり思うことがあった。 今 この綺麗な人に殺されたとして 一体何の問題があるだろう? 死んだ僕に何か残るとしたら ほんの少しの幸福と 未来永劫の痛みだけかもしれないのに。 「......その唇を塞いで、 天国に送ってやろうか?」 桃井は咲良の顎を支えたまま親指を伸ばす。 咲良は唇をなぞってくる指先を、舌でぺろりと舐めた。 それならば僕はここで死んだって きっと構わないだろう? 僕の愛しい人は 僕の姿すら見えてやしないのだから。 それに桃井と篠田の幸福か何かが買えるなら、尚更のこと。 咲良は諦めたように目を閉じた。 「......何やってんの」 くっと力を込めた手を払ったのは カラスの行水を終えて 水も滴るいい男。 ならぬ、要注意人物、雨宮孝次郎。 「わあ......っ!」 咲良は背後から伸びてきた手に捕らえられ 為す術もなく孝次郎の胸に倒れ込んだ。 「一日に二度殺されかけてるとか、 はは......笑える」 乾いた笑い声は取って付けたよう。 無防備な咲良の首筋にしっとりと熱い唇を押し付け、嘲笑う。 「全く救えないお馬鹿さんだね」 「あ......っ!」 ぼんやりとした意識にぴりっとした痛みが走った。 唇を離し、孝次郎は咲良の耳に顔を寄せた。 赤く浮き出たキスマークに とろりと指を這わせて。 「確かにお前は俺のものじゃない。 それでもその唇は俺のものだって、 その抜けた頭でも分かるでしょ?」
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