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どのくらいの時間が、経ったのかも分からない。
ようやく唇が離れた時、咲良は孝次郎の腕の中で失神してしまった。
孝次郎は僅かに乱れた息を整えながら、口端を上げてくすりと笑う。
「寝ちゃったみたい。」
咲良の頭の上に顎を乗せ、お預けを食らった血濡れの天使に目を向ける。
「可愛いと思いません?」
桃井は無言で微笑み返し、ぱちぱちと乾いた拍手を贈った。
「ふふん、上等の見世物だね」
孝次郎は生乾きの血痕がついた桃井の足下に、ゆっくりと踏み込んだ。
右腕に咲良を抱いたまま、空いている左手で桃井の手を取る。
「それはどうも。
......でも、他人事じゃあないですよ」
言って指の先にキスを落とす孝次郎に、桃井は眉を潜めた。
孝次郎は顔を上げ、形のいい唇を歪ませる。
桃井は思わず釘付けになった。
咲良を夢中にさせた魅惑の唇。
『んっ......!』
"三つ"の言の葉を塞ぎ
思い通りに操る
悪魔の道具。
肉付きのいい照らしたような桃色に
自然的に上がった口角。
キスされた指が燃えるように熱くなる。
迂闊だった。
この二つの両目が
物欲しそうにその唇を視姦するのを
(......やばい。)
どうにもこうにも
止められそうにない。
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