3.㌣アンダーシティ・ボーイズ

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「畜生!」 桃井は乱暴に唇を拭って飛び起きた。 「いつか殺してやる......!」 自分で聞くも情けない捨てゼリフを残し、寝室を出る。 「待って、先輩。」 背後から柔らかな声が桃井を引きとめたが (......どうせ録なことない。) 桃井は無視して玄関扉に手を掛けた。 「待ってって、言ってるの!」 「えっ」 肩を掴まれ、振り向かされる。 真剣な瞳が桃井を捕らえて離さない。 「ねえ......、無茶しないで」 思いがけない不意打ち。 この期に及んで、動けなくなるから そんな目で僕を見つめないで。 もう、嘘さえもつけなくなるから。 理由もなくあんたに惹かれているって_____。 あんたのキスが 僕をそうさせたんだって。 「そ、そんなこと、」 「あるよ。」 吐息のかかる距離。 それでもまだ遠いよ。 一度味わえば、我が儘になる。 ......その唇が、欲しくなる。 「好きでもない奴に 軽々しくキスなんてしないで。 先輩が、することじゃない。」 じゃあ、あんたが相手してくれんの? あんたは僕にキスしたくせに。 僕の好きな人がキスしてくれないなら、 あんたの唇を奪っていいの? その唇にもう一度触れられるなら、 僕はこの恋を捨てられるの? 「......嫌だ」 答えはもう分かってる。 だから板ばさみになって辛いんだ。 「僕は、傷ついてなんかない。」 傷つけたのはむしろ、 あんたの方だよ。 激しいのに優しい お仕置きのキスなんて、反則。 僕の純情に傷をつけたのは、 あんたなんだよ。 「委員長の邪魔をする奴は、誰であろうと排除する。それが僕の仕事だから」 だからどうか、 この涙に気づかないで。 その唇に恋した罪深い僕に 偽りの慈悲を与えて。 孝次郎の手を離れ、 桃井は独りきりの廊下に躍り出た。
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