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「橘咲良」
ムダに広い敷地内の中でも、人目につかない校舎裏。
青々と茂った木の陰、震える少年を、六つの人影が囲うように立っていた。
「お前さあ、黒瀬様に何てことしてくれたと思ってんの」
その中の一人に肩を押されて、咲良はその場にかくりと崩れ落ちた。
他の男子生徒が、持っていたバケツの中身を咲良の頭に容赦なくぶちまける。
制服のシャツが灰色に染まり、髪の先から滴る水が虚しく地面に溶けた。
「コップごと水ぶっかけるとか、ほんとあり得ないから。どんな神経してんの」
「ちょっと可愛いからって、調子乗り過ぎなんだよ」
髪を引っ張られ、蹴られても、咲良は自分の肩を抱くことしか出来なかった。
声にならない悲鳴を、
泣き出しそうな空にあげていた。
痛いよ。怖い。
誰か、助けて______。
「委員長、そっちは中庭ですっ」
「は?」
そんな時、
不意に聞こえてきた誰かの声。
お世辞にも正義のヒーローには
到底思えなかった。
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