4.僕と 貴方と 宇宙旅行

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懐かしい夢を見た。 ......などと、思いに耽る暇もなく。 咲良は目覚め早々、青ざめた。 きれいさっぱりまっさらで手付かずのノート。 教壇から突き刺さる絶対零度の視線。 と、クラスメイトの同情じみた生暖かい目。 「橘。」 「はっ、はい」 「問3、答えは?」 「え、えっと。分か」 「分かりませんって言ったら犯すよ」 「存じあげません」 「言い方の問題じゃないんだけど」 それより『犯すよ』発言で失神した十数名を介抱してやった方がいいのでは。 中には白目向いてる奴もいて正直怖い。 「おーい、君ら一斉に居眠りするんじゃないよ。当てられたいなら手を挙げろー」 や、つっこみ所はそこじゃないと思う。 まあこの惨状は咲良のクラスのみならず、日常茶飯事。 教師も慣れたものだ。 「授業にならないね」 終にはやれやれとばかりに頭を振る教師。 いや、間接的にあなたの仕業ですけど。 ていうか絶対確信犯だろ。 咲良が立て続けにつっこんでいるうちに、突如後ろのドアががらりと開いた。 「......遅刻しました」 ぽつりとした低い声。 派手に染めた金髪に銀のピアス。 「柊 飛鳥、また遅刻か」 皮肉めいた教師の声を遮るように 音漏れの激しいイヤホンを耳に差した 我がクラスの保健委員。 「ちっ、英語かよ」 不意に吹き込んだ風に制服の裾を翻して 切れ長の目を眠たげにとろんと滲ませ 教師の横を舌打ちながらに通り過ぎる。 「......おはよ」 「お、おはよう」 飛鳥は、咲良の横の席に座り片耳のイヤホンを外したかと思えば、さっさと机に突っ伏してしまった。 失神した生徒に紛れたつもりだろうが、 バレバレなのは言うまでもない。 授業のじの字にもなってない 依然どうしようもない授業風景。 結局痺れを切らした英語教師が、 黒板に拳を叩きつけるまで続いた。
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