4.僕と 貴方と 宇宙旅行

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そう思いつつも、視界の隅に孝次郎の背中が入り込み、咲良は咄嗟に目を逸らす。 くそ、油断した。 咲良は椅子に座り直し、てらてらと光る指をハンカチで拭った。 一回、二回、深呼吸をして、痛いほど高まった心臓をどうにか落ち着ける。 流されるな、流されるな、僕......! 咲良は不本意にも熱くなった頬を指で摘まんで、戒めるように強く引っ張った。 一瞬でも拒むことの出来なかった自分が、どうしようもなく恥ずかしい。 ここ数日の間で、 なんとなく思い知らされたことがある。 ............雨宮孝次郎には、どんな用心も警戒も役になんか立たないのではないかと。 なぜなら、 奴は筋金入りの変態だからだ。 如何わしいちょっかいをかけてきたり 人をからかって遊んだり でもたまに ほんの、ちょっとだけ、優しくするから ............あざとい。 「でもさあ、」 飛鳥はパックのオレンジジュースにストローを差し込みながら言った。 「孝次郎って絶対、咲良のこと好きだよね」 「う......、知ってる。」 「え?うっそ」 「知ってるから困ってるんだろっ」 「え?!え、告られちゃった?」 「そうだよ、悪いかよ!」 え、とその言葉しか知らないように繰り返す飛鳥。 咲良はその手からジュースを引ったくり、半ばヤケになって最後まで飲み干した。 い、い......っ、言っちゃった。 衝動に駆られてぶちまけてしまったことに多少後悔を感じつつも、ちょっと清々する。 ......だって、胸が、苦しい。 咲良は頭を抱えて、机に突っ伏した。 顔が焦げてしまいそうなほどに、熱くなって。 『好きだよ』 たったそれだけ。 それだけの言葉が、咲良の頭を 居座るように独占していた。
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