4.僕と 貴方と 宇宙旅行

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恋は盲目だとか、広い世間は言うけれど 一番見えていないのは もしかして自分の姿なのかもしれない。 放課後のこと。 咲良は空っぽの鞄を引き掴み、一目散に人気の少ない中庭へと駆け込んだ。 特等席、花壇隅のベンチに寝転んで、乱暴に目を擦る。 (眠い......。) 寝不足で霞む目に、この空は眩しすぎる。 目前に広がるスカイブルーに 手を伸ばしても 届きそうにない真っ白な雲。 まさにこの胸も ふわふわとした高揚感でむず痒くって ............なんだか僕、浮気者みたいだ。 情けなくも、 この手の悩みに疎すぎて 正しい答えが分からない。 正しい答えが見つからないから 自分の居場所すらも、掴めない。 そうしてようやく 息を切らして逃げてきたあの雲の下で 僕は誰を 誰の手を たった独りで待っているのだろう? 何度も自問自答して 陽の暮れていく空に 空っぽの手を伸ばしても あの夢に出てきた赤いマフラーに ......咲良の手が届くことはなかった。
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