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不測の事態に、固まってしまう。
篠田は事も無げに、咲良の手を握った。
「冷たく......はないか。六月だもんね」
「あ、は、はい」
ほんのり色づいた指に手の甲を撫でられて、咲良は真っ赤になりながら、がばっと起き上がった。
篠田が不思議そうに頭を傾けると、夜色をした髪の毛がさらさらと柔い風に揺らいだ。
「綺麗......」
「ん、何?」
「何でもないです」
何言ってんだ、僕。
咲良はぱっと目を逸らして、口元を手で覆った。
篠田がくすりと笑い出す。
「咲良くんて、変な子」
「へ、変......っ!?」
「でも可愛いね」
「可愛いって......。」
天然なのか、この人は。
他意のない言葉を聞いていると
胸の奥がふわふわして落ち着かない。
「ああ、それとさ」
篠田はゆったりとした動作で咲良の横に腰掛けると、また悪戯っぽく笑った。
どきりとする。
「褒めてくれるんなら、目を見てくんなきゃね」
「なっ、ちゃんと聞いてたんじゃないですか!」
「ごめんごめん、怒らないで」
肩を揺らして笑いを噛み殺す篠田。
前言撤回。とんだ食わせものに違いない。
......それにしてもこの人、誰かに似てる気がする。
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