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「え。いやちょっとね、向いただけだもん。気になって」
「嘘つけ。いい加減、校内の地図くらい覚えて下さいよ、このポンコツ!」
「うるさいな、そんなんとっくに覚えてるに決まってんじゃん。ほら、裏庭はこっちでしょ」
「そっちは食堂ですって!」
「..................はあ?」
束の間の沈黙。
「何ぼけっとしてるの。早く連れて行ってよ、全くもう、使えないなあ」
「委員長が意地張るせいですよっ!」
すぐそこから聞こえてくる怒濤の応酬。
六人は勿論、咲良までもが、声のする方向を放心しながら見つめていた。
校舎の角を曲がってきた、声の主らしい黒髪の少年と、目が合う。
「あ。」
その少年は間抜けな声を出すと、姿勢を正してこほん、と咳払いをした。
「あーーー、お取り込み中失礼。悪いけどそこのびしょ濡れの男の子、こっちに引き渡してもらおうか、スイカ共」
「なっ、だ、誰だよお前っ」
数秒間を空けて、我先にと正気を取り戻した男子生徒が、うろたえた様子で叫ぶ。
「俺?」
少年は艶やかな黒髪を掻き上げて、
冷たい瞳で男子生徒を見据えた。
「保健委員会、委員長。篠田伊織。
もう一度言うよ。その子を渡せ」
有無を言わせぬ鋭い眼光。
どことなく気の抜けた感じが否めない。
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