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戸惑い?
敵意?
恐れ?
いや。
このとき僕の胸にさざ波立てたのは
単なる感動だ___。
心が揺れる。真摯な瞳に。
僕は今 息を止めて
世界で一番綺麗な人を見つめてる。
映画のワンシーンのような
余計な着色料は欠片もなかった。
夜空に透ける黒髪に
宇宙銀河の星が溢れるほどに宿って
涙をこぼすほうき星。
彼は恋敵
分かっていても
思わず守ってあげたくなる、堪らなくなる。
「でもやっぱ、ちょっと、......辛いや。」
ぽろぽろと
震える睫毛の下に伝う雫に
素直に戸惑う細身の身体。
「いつもこんな
泣き虫じゃないんだけど......」
見ていたら
僕は浮気だなんだと
あれほど悩んでいた自分を
簡単に忘れてしまった。
「......先輩」
気づけば僕は先輩の腕をぐっと引き寄せて
シャツの袖で涙の粒を拭っていた。
「え、と......咲良くん?」
きょとん、目を瞬かせる篠田。
咲良は篠田の抱える花束ごと
その身体を腕に閉じ込めた。
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