1.学生生活において、スイカは天敵です

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逃げる背中を見送った後、篠田は肩をすくめて浅く息を吐いた。 「逃げるくらいなら、最初からやらなきゃいいのにね」 ゆっくりと咲良に歩み寄り、目線を合わせるようにしゃがみ込む。 びくりと肩を震わせた咲良の顎を指でつまんで、くいっと持ち上げた。 「大丈夫?」 長い睫毛に縁取られた黒い瞳に見つめられ、咲良は耳まで真っ赤になった。 「はっ、はい」 「じゃ、来て」 「えっ」 篠田は咲良の手首を掴んで立ち上がった。 咲良もつられて立ち上がる。 「あの、どこにですか」 「保健室。」 篠田は咲良の膝に出来た青い痣を見ながら言った。 確かに体中が痛い。 本気で蹴られたりしたのだから、当然といったら当然なのだが。 しかし、咲良は首を振った。 「いえ、大丈夫で......わっ!」 「はいはい、大人しくしててね」 突然、篠田の肩に担ぎ上げられ、咲良は動転して足をばたつかせた。 篠田は何食わぬ顔をして歩き始める。 「降ろして下さいっ、歩けますから!」 「いやいや、君、怪我人じゃん」 「僕、濡れてるしっ」 「後で着替えりゃどうってことないじゃない」 「......あの、委員長」 パーカーを着た少年が、額に手を当てながら呆れたように言った。 「そっちはゴミ置き場ですけど。その子、捨てるつもりですか」 「え。」
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