焦燥

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「この○○○とはどういうことがじゃ」 全く前置きもないまま、慎太郎は沈黙を破った。 彼は回りくどい尋ね方などしない。 そのまま、龍馬のほうに振り返ろうともせずに言った。 「えっ、おんしには分からんがかえ」 龍馬は飲みかけた茶碗を急いで置いていかにも不思議そうに言うと、慎太郎の元に駆け寄り彼の顔を覗き込んだ。 その龍馬の大げさな態度に、慎太郎はぎくりとした。 「尋ねる前に答えがわかっちょるなら、わざわざ聞く必要がなかろうが」 慎太郎は冷ややかに言うと、顔をこわばらせた。 「おんしの言うとおり、答えが分からんから秘密になっちょるわけじゃき」 龍馬は首をひねったまま、笑いを浮かべた。 その顔から遠ざかり慎太郎は舌打ちすると、 「答えは分からぬにしても、案はあるからこういう書き方をしちょるんじゃろうが。誰じゃ、あの中に入る者は」 「さあ、わしに聞かれてもねえ・・」 と龍馬は顔をにやつかせ、頭を掻いた。 その態度が一層慎太郎を感情的にさせる。 「は?何を言っているがじゃ、己の書いたことに責任がもてんのかえ!」 慎太郎の語気は段々と強くなる。 彼の詮索に龍馬は困ったふうに 「まぁ、落ち着け、いちおう案はある。ほいじゃき、まだ構想にしかすぎんのを公表はできないってことじゃ」と、龍馬はのらりくらりと話をかわす。 苛立つ慎太郎はなんとか我慢して、方針を変えようとする。 「それはこの俺に対しても、ちゅうことかえ」慎太郎は龍馬を真正面から凝視した。 「・・」 龍馬の顔が曇った。 効果あった、と慎太郎は見た。 「同じ理想の元で数々の困難を共にしてきた俺にも言えぬちゅうことがか」慎太郎はたたみかける。 「・・」 龍馬は答えない。 よし、と心の中で思った慎太郎は、龍馬に詰め寄る。 「何を隠し立てする必要があるじゃき。親友じゃろが、俺たちは」 さすがにこの言葉には、少なからず悪寒を感じた。 だが、目は光らせた。それは獲物の隙を虎視眈々と狙う禽獣の目と似ていた。ここで、逸らされては万事休すだ。 「なあ、教えてくれ。もしかしたら、おまえの力になれるかもしれないから」 と慎太郎が穏やかな声で言ったとき、龍馬は顔を勾配に上げた。 きたか、慎太郎は歓喜の声を上げたいのを抑え、龍馬の返答を待った。
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