焦燥

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「言えぬ」 と龍馬は言った。 「えっ」 思わず声を漏らした。 そのとき、慎太郎は一瞬だけ、龍馬の闊達な雰囲気が変わった気がした。 その言葉の響きがあまりにも冷たかったのだ。 戸惑う慎太郎の心情が顔に表れたとき、龍馬の目が明らかに変わった。 しまった、と思った。 連撃を浴びせたがために、全く防戦の容易ができていなかった。 無防備な自分の心のうちを、龍馬に貫き通されているように思えた。 気持ち悪いほど汗が止まらない。 もう終わりだ、と慎太郎は覚悟した。 「・・龍馬」 慎太郎は耐えられず漏れ出たような声で言った。 「じゃが・・しかし本当に言いたくないなら、やむをえんが・・」 慎太郎は、無理強いはしないと念を押した。 慎太郎は、最後の防波堤を築く心持だった。しかし、 「慎、震えちょるぞ」と龍馬は突然すっと目線を上げると、大声で笑った。 「?」 慎太郎は話が呑めない。 「おまえに隠すことなど何もないきに。なんと言っても同士だからな」 と言って笑った。 ああ、そういうことか、慎太郎はまず助かった、と思った。 体の力が抜けていくのが分かった。
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