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孤独な月が輝いていた。
それは広い空の中にひとつぽつりと黄金色に照っていたためか、天を仰いだ中岡慎太郎にはそう感じられた。
ここ近江屋の一室には、慎太郎と彼の盟友坂本龍馬がいた。
龍馬は未来の日本の筋書きを描いていた。
畳の上に広げられた部屋の端から端までに達する程の横長の大きな紙に、江戸幕府に替わり国家を運営する新政府の重役とされる名前が、横一面に書き連ねられている。
畳に這いつくばるように身をかがませ、顎を左の掌に乗せ肘を膝の上に置くことで辛うじて上体を支えて上半身の均衡を保ちながら、右手で筆をゆっくり揺らして思案に耽っていた。
それで答えが出ると、即座に筆を持ち替えて紙に書き出す。
その繰り返しを続ける龍馬を、慎太郎はただじっと見ていた。
見守っているというそう容易いものではない、むしろ一切の感情を押し殺し睨みつける程の敵意を感じさせ、まさに凶悪犯を見張る牢番のような鋭い目つきで龍馬の様子を見ていた。
だが当の龍馬は頭をまわしたり平然と腕を伸ばしたりして、案が出ると微笑さえ浮かべながら流暢に筆を滑らせている。
この二人の正反対に等しい態度のためなのか、会話を交わすことが全くない。
一室は友人同士の対面とは逆に、それぞれにそれぞれの気を醸し出していた。
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