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慎太郎には見慣れた風景であった。
常に明快で闊達に振舞う龍馬と泰然自若として真摯に物事に向き合う慎太郎を、人は『陰と陽』の関係だといった。
薩長同盟や大政奉還もそうであった。
これらは龍馬が一人でやり遂げた偉業であるという世間の認識が強く、慎太郎が裏で多大な尽力をしていたことを知る者は少なかった。
だが、彼は龍馬への羨望や『陰』という評価への劣等感など微塵も感じなかった。
それでいて、どんな偉業を成しても甘んじることはなかった。
なぜなら、彼は名誉を求めなかったのである。ただ一途に国の未来を熱心に考えていたので、どんなに骨を折って貢献したことでも達成感を感じなかったのだ。
慎太郎にとって龍馬は今まで道標というべき存在だった。
だから彼が持つまぶしさを、龍馬を照らすために向けられていたのである。
(まだ自分には出来ることがある)
この考えは消えることはなく、自身に新たな使命を与え続けるのである。
これは龍馬にもいえることだった。
このように龍馬と慎太郎は同じ志で結ばれた親友であり、利害とはかけ離れた二人の関係は、身分や年齢の差があっても潰えることがなかった。
だから、龍馬がどんなに困難なことを頼んでも、慎太郎は命を賭けてまで期待に応えてきた。
これらの経緯から、龍馬は慎太郎に絶対的な信頼を置いていた。
それは共に偉業を成すたびに、より慎太郎は強く感じられた。
だが、今それを思うと、慎太郎は胸が締めつけられるような苦しみを感じるのだった。
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