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僕はしばらく彼女を見つづけた。彼女が小さな手をあわせ、目を閉じた。見ていられなくなった。
「たぶん、彼女を見守りたいってのは、嘘の気持ちだったんだ」
望遠鏡をリエルに返し、僕はひとり言のように言った。
「自分でも気づかなかったけど、僕は結局、怖かったんだ。だれも僕のことを思いだせなくなって忘れてしまうのが。みんなの記憶から消えて、ひとりぼっちになってしまうのが。僕が地縛霊になったのは、だれかに僕を見て欲しかったんだ。はは。バカな理由だ」
「バカじゃないよ」
沈みかけている太陽を見つめながら、リエルは否定した。少し寂しそうに言葉をつづける。
「いくら強がってもね、人はみんな心のどこかでひとりぼっちは怖いと思っている。あなたのような霊があとを絶たないのがその証拠よ。人に心があるかぎり、この切ない連鎖は終わらない、きっと」
ひょっとしてリエルは、最初から僕すら気づかなかった僕の本心を見抜いていたんじゃ? そんな口ぶりだった。
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